あとがき

 今から十二年ほど前、私が板倉町の筒方小学校に勤務していた頃のことです。

 はじめて一年生の担任となりました。

 ある学級お楽しみ会の時、いろいろな余興の続くなかで、K君が、おばあさんから聞いた昔話を語ってくれました。その時のK君のお話のうまかったこと、そしておもしろかったこと。たしか「三枚の札」の話でしたが、子どもたちは目を輝かせて聞くし、私も思わず身をのリ出していました。

 後でK君に聞くと、おじいさんも、おばあさんも、昔話をたくさん知っていて、よく話をしてくれるとのことです。その頃、もうすでに、このような経験を持っ子は少なくなっていました。"できればもっとたくさん聞かせたい〃私は早速K君のお宅に、昔話を聞かせてほしいとお願いしてみました。そして快く引き受けていただいたのです。

 土曜日の午後、テープレコーダーを持ってお伺いし、暖かい炬燵に入れていただきながらK君たちと一緒に聞いた昔話。それがこの本の話です。そのテープは、給食や国語の時間に、みんなで聞いたのですが、その後は、ずっと私の机の中でねむっていました。退職した今、時間に余袷ができましたので取り出して聞いてみますと、私違の郷土の方言、郷土のなまりが、幼い頃、母のひざに抱かれながら聞いた甘い想い出を誘って、思いもかけぬ懐かしさで胸を打ってきました。

 自分をはぐくみ、育ててくれたことばの世界にどっぷりとっかる楽しさ、大自然と一体に生きた人間の素朴さ、そういうものにたまらなく魅せられました。

 やがてこのことばも訛りも、そして話そのものも消えてしまうことでしょう。そう思ったら、急にこの話を残しておきたくなりました。そして一人でも多くの人から
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