まえがき 
 「昔あたってね」ではじまる昔話は、わたしどもが子どものころ、寒い冬の夜など、こたっに人って、おじいちゃんや、おばあらやんの、たくみな話しぷりに、われをわすれて聞きほれたものでした。「えちゃぽん」で話は終わるのですが、「もう一度」「もう一度」と何回もせがんだ思い出があります。

 今の家庭は、テレビや雑誌が中心になっていますので、親と子、祖父母と孫というような、家族間でのお話は、必要以外はあまりしないようです。このようにして、物が中心になっている現代は、昔話を聞いたころのような家族との心仰やりとりが、だんだん消えていくような気がしてなりません。

 当然のことながら、そのような昔話は、どこの家にも村にも語れる人は少なくなり、残されているお話もだんだん少なくなってきたことは、とても残念なことです。

 この本は、そのようなことを考えられた尾崎先生が、板倉町の上関田に伝わる昔話の一部をまとめられたものです。人と人、人と動物、人と地蔵さんなどのお話の中に、素朴な愛情と親しみ、人間の強さなどが感じられて、読んでいくうちに、ほのぽのとした あたたかい気持ちになってきます。

 このような昔話は、心のゆりかごであり、幼いころの思い出であり、大きくなてもいつまでも心の支えになっていくものだったのです。

 特に、この〈むかしむかし〉は、その土地のことば、そのままで書かれていることで、皆さんが大きくなってからも、古里を思い、祖父母や父母を想うきずなともなることでしょう。

 ふるさと古里の山々と谷間の家、そしてそこに残されているお話をとおして、昔の人たちのあたたかい心がしのばれ、なっかしく思われることでしょう。そういう意味では、